RECRUITMENT 2020
RECRUITMENT 2020

デジタル捺染でも“なくてはならない”企業に。
世界をリードする技術と、イノベーティブな発想を携え、
エンジニアは海を渡った。

繊維産業は中国・インド等の経済成長で世界的な伸長が見込まれている。
中でもテキスタイル(布地)のデジタル捺染は期待の大きい分野だ。
エプソンはデジタル捺染の草創期から参入し、2003年には、高級捺染業の世界有数の拠点であるイタリアはコモにあるデジタル捺染機メーカー「ロブステリ社」とデジタル捺染プリンター「Monna Lisa(モナリザ)」シリーズの共同開発をはじめた。
世界的に注目を集め、エプソンでは前例のない開発となった同シリーズの最新機種「Monna Lisa Evo Tre(モナリザエヴォトレ)」について、開発を手掛けたNと、先輩・上司として見守ってきたM課長に話を聞いた。
巨大化するデジタル捺染市場に打って出よう
インクジェットプリント技術が高く評価されているエプソンだが、テキスタイルプリントについては十分に実績があるとは言えなかった。素材も厚みもテクスチャーも多様な布地にプリントするのは、容易なことではない。素材によって適するインクも違ってくる。おまけに、プリンターのサイズはかつてないほど巨大だ。一朝一夕に達成できるような簡単な挑戦ではなかった。
ファッションといえばイタリア。そのイタリアでトップのデジタル捺染機メーカー「ロブステリ社」と手を組み、まずは教えを乞うところからスタートするというのは、エプソンの歴史の中でも前例のない仕事となった。
それでも、エプソンが得意とするインクジェットプリント技術を存分に生かせて、なおかつ今後の成長が見込める分野だけに、主力事業のひとつとしての期待は大きい。
北米を中心に好調な事業となっているTシャツプリンターの設計に関わったこともあるM課長は、「デジタルで布地にいろんなデザインを施せるというのは、非常に可能性があります。インクジェットは表現力に優れていますから」と、その面白さを説く。
異国の地で腰を据えて仕事をする難しさ
3代目となる「Monna Lisa Evo Tre」には、日本国内での生産という大きなミッションが課せられていた。それまでの同シリーズ機種は、本体はロブステリ社の設計・製造で、インクやヘッドといったキーパーツをエプソンが提供していた。
今回大変だったポイントは2つあるとM課長は言う。ひとつは、国内生産とそれに伴う量産設計のために「すべてエプソンの仕組みに落とし込んで行かなくてはならない」(M課長)難しさ。もうひとつは、捺染についての蓄積に差がある中で両社が持つ技術力や設計力をすり合わせるテクニカルな難しさだ。
前者については、細部まで作りこみたいエプソン側に対して、ロブステリ社のエンジニアが「なぜそこまでする必要があるのか」と疑問を投げかける場面もあり、設計の考え方の違いを痛感したという。後者については、設計法自体が一角法と三角法※という具合に違っており、ロブステリ社から提供された図面を読み直す作業が必要だった。
とはいえ、ロブステリ社の経験とノウハウを真摯に学ぶところからはじめて、製品として完成させて製造にこぎつけたのは大きな成果となった。その証拠に、同シリーズは高級ブランドのアパレルメーカーから高い評価を得ている。
※……それぞれ、立体空間にある物を水平と垂直の2方向から投影してその形状を平面に描く「正投影図法」の一種。図学が発達したヨーロッパでは一角法を使う伝統があり、アメリカや日本では三角法が主流となっている。
人間関係は、時間と対話の密度が醸成してくれた
最新機種の開発のため、ロブステリ社近くに一軒家を借り、日本から行ったメンバー10人で3ヵ月ほど共同生活を送った。そのひとりだったNは「料理ができる人は料理、できない人は皿洗いというように、徐々に役割が決まってくるんです。面白かったですよ」と男10人のゆかいな日々を振り返る。ロブステリ社では、社員の誕生日や子どもが生まれるといったお祝い事があると工場内で、皆で乾杯する。「仕事の付き合いでもまるで家族のようでした」(N)と、文化の違いを肌で感じる場面にも立ち会った。
今回のプロジェクトの難しさはさまざまな“違い”に集約されるが、結局は人に支えられた。ロブステリ社のメンバーとは、国・文化・言語はもちろん、同じエンジニアでも設計法も考え方も違う。「言葉で苦労しながらも、話していくうちに人間関係もできてきて、こちらの考えにも理解を示してもらえるようになりました。エンジニアだと図面が共通言語になる面もあります」(N)。
また、社内であっても、部門が違えば見えるものも考え方もまるで違う。「メンバーとは短くない期間を一緒に過ごしたことで、頼みやすい関係性になりました。今までは縦割りで仕事をしていましたが、対ロブステリ社となるとスピードの問題もあってそれではやっていけません。その壁を取っ払うのは、今も課題としてありますね」(N)。
エンジニアも外へ、お客様のそばへ行け
エンジニアの仕事は、現状では非常にドメスティックだ。グローバルに展開しているエプソンであっても、エンジニアが海外で長期にわたって開発や設計をする仕事はかつてなかった。M課長は、このプロジェクトを通して、これからのエンジニアのあり方を垣間見たという。「この製品はB to Bですから、世界のお客様が何を求めているのかを熟知していないと成り立ちません。その答えを世界のビジネスパートナーと協業して出していく必要もある。そこまで思いを致さないと、日本のエンジニアは付加価値を出せない、世界に通用しない時代に入っています」。
Nはエンジニアとして世界が広がったという。「設計者は通常、お客様から遠いところにいます。しかし、商用機はお客様の商売にダイレクトに響きますから、お客様のそばで問題をスピーディーに解決することが強く求められます。お客様の困り事、サービスマンの困り事を知った上で設計しないといけないと、つくづく感じました」。国内生産1号機はすでに関西のお客様のもとで稼働している。何かあれば現場に行って課題を解決し、開発にフィードバックする日々だ。
社会にとって“なくてはならない”企業になる
製品で社会的な意義や価値を体現するのは、今やグローバル展開するメーカーのあるべき姿だ。お客様にとっての価値はもちろん、エプソンはその先にある“社会的価値”も常に意識している。アナログ捺染では、作業工程の煩雑さ、場所をとる版の管理、労働者の負担、環境負荷がマイナス面としてあった。デジタル捺染プリンターは、その解消に大きく貢献できるのだ。
「アナログ捺染では水を大量に使います。水質汚染は世界的な問題になっていますが、デジタル捺染だと使う水も廃液も大幅に削減できるのです」(N)。とはいえ、現状に満足はしていない。「技術的に開発できる余地はまだまだあります。正直、お客様の求める水準に達していない部分もあります」(M課長)。「できる限り使う水を少なくしていくのは、これからも課題ですね」(N)。挑戦の歩みは止まるところを知らない。
チャレンジは自身の成長と、皆を笑顔にするチャンス
エプソンのデジタル捺染プリンターは、スパイラルアップの段階で、競合他社としのぎを削り合っている。ただ、メカ・ヘッド・インクなど複数の要素が高度に連携しあうプリンターにおいて、それぞれの要素を自社開発で積み上げてきたエプソンには、トータルソリューションで勝負できる強みがある。実際、最新機種には最先端のプリントヘッド「PrecisionCore」を搭載し、業界トップレベルの画質と生産性を実現している。
「火中の栗を自ら拾う」が座右の銘であるNは、「今回の仕事も大変でしたが、大変な時のほうが成長できるとも感じています」と、アグレッシブさは変わらない。
一方M課長は、力みのないスタンスで構える。「社会に貢献してその対価として利益をいただくという営みは、煎じ詰めれば『人を笑わせたい』と根っこは同じではないでしょうか。自分も笑いたいし、周りも笑ってくれる。それが仕事だと思っています」。ふたりはずっと同じ職場だ。NはM課長のことを「あんな変な人が本当に優秀なんですよ。優秀なのに面白い」と慕い、M課長はNの声真似で周囲を笑わせながらも、Nが仕事のために英語の勉強を続けていることをしっかり見ている。
期せずして自らのキャラクターを「声が大きい」と表現したふたり。プレッシャーはどこ吹く風、どこまでも明るく勢いをもって“インクジェットイノベーション”街道のど真ん中を、仲間とともに歩み続ける。