人の感覚を機械で再現?「自動化技術」でものづくりが変わる

プリンターをはじめ、産業用ロボットやプロジェクターなど、幅広い領域のものづくりをけん引するセイコーエプソン株式会社(以下、エプソン)。その全製品の開発から量産工程までのさまざまなフェーズの自動化を支えているのが、製造工程を機械作業へと置き換えていく「自動化技術開発部」です。これまで人が行っていた繊細な作業を自動化し、より効率的で省資源なものづくりを実現しています。自動化技術の意義や果たすべき役割、働く魅力について同部の部長と現場社員にお話を伺いました。

エプソン製品の製造工程の自動化、機械化を担う専門部隊

自動化技術開発部 部長/塚田 幸治

はじめに、エプソンにおいて自動化技術開発部が担う役割と組織構成について教えてください。

自動化技術開発部は、当社のものづくりにおける生産性向上を主とした合理化や新機種生産工程の自動化、既存製品の増産対応を目的とし、自動化の提案、装置の設計・開発・導入、安定稼働のサポート、そして量産化までのセットアップを行っています。

当社が製造、販売する製品は、プリンターや水晶デバイス、ロボットなどB to CからB to Bのものまでを網羅しており、対象とする業界もさまざまです。私たち自動化技術開発部はこれらすべての製品の、開発から量産工程までのあらゆるフェーズの自動化に携わっています。

組織構成としては、技術開発を担う「開発チーム」と、それを装置化して現場に実装する「装置製作チーム」の2つに大別されます。開発チームが構築した自動化のさまざまな機能を、装置製作チームが実際の製造現場に導入できる形に組み上げ、装置づくりを進めています。

開発チームは機械制御や画像処理のスキルのあるメンバーを中心に約80人、装置製作チームはメカ・電気・制御・画像設計・機械調整のメンバーを中心に約130人、そして社内の部門間調整や装置導入後のフォローを行う管理チームに約20人。合計約230人が在籍しています。

具体的にどのような自動化装置を作られているのでしょうか。

例えばインクジェットプリンターであれば本体パーツはもちろん、ヘッドやカートリッジ部品の製造にも活用されています。最近では産業用ロボットの自動組み立てにも注力していて、ロボットがロボットを作る未来を実現できそうです。

また、社内に限らずグループ会社でも導入が進んでおり、例えば金属粉末の検査装置などにも採用されています。

人口減少、環境破壊──社会問題の解決にも資する工場自動化を

本当に多岐にわたる装置を開発されているのですね。エプソンならではの自動化技術があれば教えてください。

私たちが自動化しているのは、これまで人がなにげなく行っていた「目で見て、手で感じて組む」といった機械にとっては高度な動作です。人の目の代わりとなる分光カメラや、人の触覚に負けない繊細な力覚センサーを用いて装置を作る必要があります。この分光カメラや力覚センサーには、当社のマニュファクチャリングソリューションズ(MS)事業部が保有する高度なロボット技術を取り入れるなど、ものづくり企業だからこその社内の技術連携が行われています。

また、当社が誇る「省(しょう)・小(しょう)・精(せい)の技術」も強みです。これは当社の「より効率的、より小さく、そして精緻さを追求した技術」のことで、これが自動化装置にも生かされています。工場の限られたスペースのなかでより効果的な自動化がかなうよう、省資源でコンパクトな装置開発を徹底しています。

自動化技術開発部が描いている将来の工場の姿として、2025年度に「自動化技術とDX基盤を融合した工場」、2030年度に「完全自動化・省資源型工場」があります。これを掲げた背景や、現在の達成状況を教えてください。

背景にはやはり、労働力人口の減少という社会問題があります。自動化技術によって従来人が担ってきた作業を装置が代替できれば、人は、より付加価値の高い仕事にリソースを割けるようになり、この社会問題に対する一つの解決策を提示できるはずです。それを実現すべく、私たちがまず社内で自動化の技術開発を進め、いずれ社会全体へ価値提供をしていきます。

もう一つ、環境問題も重要なテーマです。先ほどご紹介した「省・小・精の技術」に加え、一つの装置に複数の機能を与えることで、複数のラインに組み込めたり、くり返し使えたりする工夫を凝らしています。限られた資源を有効活用することで、循環型社会に貢献したいと考えています。

これらを踏まえ中期ビジョンとして描いているの2025年度の「自動化技術とDX基盤を融合した工場」です。製造にかかわるあらゆるデータの整理に加え、DXにも着手しながら、よりスマートに稼働できる工場づくりに励んでいる真っ最中です。

例をあげると、当社の主力事業であるプリンターの生産自動化が進んでいます。これまで人の感覚に頼っていた部分を自動化するため相当の難しさがありますが、一つ一つ課題をクリアしながら、ようやくモデルとなる形が出来上がりつつあり、確かな手ごたえを感じています。

2030年度では「完全自動化」という言葉を盛り込んでいますが、これはあくまで概念であり、実際には「人と機械の融合」を目指しています。なぜなら、人の手のほうが機械よりも優れている点があることなど、人にしか実現できない領域があるからです。人が担うべき領域も残しつつ、そのうえで最適な自動化を実現します。

目指す工場の姿を実現するにあたり、特に注力しているテーマは何でしょうか。

装置そのもののレベルアップはもちろんですが、装置を開発するプロセスの進化にも注力しています。前者は装置を現場でより使いやすくより効果的なものにするということであり、後者はそれを実現するための過程の効率化を指しています。

良い装置を作ることは大切ですが、それで装置の開発者や設計者が疲弊してしまうのは本末転倒です。彼らがパフォーマンスを最大限に発揮できる職場環境づくりも良い装置づくりに直結するため、常にその過程の効率化や迅速化にも真剣に取り組んでいます。

目の前の事象を当たり前と思わない、その心がアイデアを生む

自動化技術開発部で活躍するためには、どういった素養が求められますか。

スキルとして装置製作に携わった経験のある方や制御プログラムを設計できる方は大歓迎です。ただ、それ以上に求めているのは、前向きなマインドです。私たちは前例のない新しい技術開発に挑んでいるため、困難や壁にぶち当たる場面も多くあります。そのときに「これはできない」「しかたがない」と思うのではなく、「何か手段はないか」「他にやり方があるのではないか」と前向きに考え、行動できる方はきっと活躍していただけると思います。

私はよく、メンバーに「目の前にある事象を当たり前と思わないように」と伝えています。例えば、ある装置を作るのに3日かかっていたとしたら、「なぜ3日かかるのか」「もっと短縮できるのではないか」を常に考える姿勢が大切です。この意識を持ち続けることこそが、新しい開発やさらなる改良に結びつくアイデアにつながると考えています。

これから当社の自動化技術開発部に参画していただく方には、ぜひ社内にはない新しい視点から部内の「当たり前」に疑問を持ち、より良いアイデアを発信していただきたいと思っています。

自動化のためのソリューションを探求する「開発」の仕事

自動化技術開発部 メカ設計担当/北村 奈保美

北村さんのご経歴と、エプソンに転職したきっかけや入社の決め手について教えてください。

私は2014年に新卒として機械設計を行う会社に入りました。主な業務はロボットの付帯設備の図面を引くことでしたが、ものづくりを行う会社ではなかったため、社内で完成したものを目にする機会がありませんでした。自分の図面から出来上がったものを見たい、そしてそれを実際に動かしてみたいという気持ちが強くなったのが、転職のきっかけです。

そこでロボットを扱う企業をいくつか検討するなかで、エプソンの面談の印象がとてもよく、志望度が高まりました。というのも、面談を通して、私の経験ややりたいことを細やかに聞いてもらえたので、私も緊張することなく自分の思いを言葉にすることができたのです。そのなかで「装置を作って動かしたいなら自動化技術開発部が合っている」と勧められ、まさに私がやりたかったことだと確信し、入社を決めました。

現在はどのような業務を担当されていますか。

自動化技術開発部の開発チームで、メカ設計のリーダーをしています。技術が不足していたり、動作が不安定だったりする部分の改善策を練り、装置に組み込める技術として確立するのが主な役割です。チームにはメカ設計のほかに制御系、調整系と多様な職種のメンバーがいて、5~6人でチームを組みながら一つ一つの課題に向き合っています。

具体的なプロジェクトとしては例えば、ある社内製品に組み込むための部品を「たわませる」ための装置開発をしています。

自動化の難しさは、人の感覚に頼っていた作業を分光カメラや力覚センサーによって機械化するという点にあります。やわらかい素材や樹脂を扱うときには部品が滑ったり回転したりしてうまくつかめないことも多いですし、今回の「たわませる」という直線的でない動きも機械が不得手とする領域です。

そうした難しい課題に対し、細かく条件を変えながら実験をくり返し、一定のモデルを構築できた段階です。実際に導入するのはこれからですが、実験が成功したときには大きな達成感がありました。

技術の開発、組み立て、そして操作まで。一気通貫で携わる醍醐味

エプソンだからこそ得られる経験やスキル、働きがいは何でしょうか。

自動化の技術開発で疑問や迷うことがあれば、すぐに製品の設計者や開発者から直接意見を聞けます。また導入後のフィードバックももらいやすく、現場の声をすぐに技術開発に生かせています。これはひとえに、部品から完成品まで、プリンターからロボットまで、すべてを自社開発するという当社ならではの事業ポートフォリオのおかげです。

また、私たちが開発する自動化技術がどういった事業のどの部分に生かされているかを肌で感じられますし、開発した技術で実際に装置を組み立て、動かすこともできます。入社時に希望していた以上の仕事に携われていることに、大きなやりがいを感じています。

当社は歴史も長く、ベテランの技術者が多く在籍しています。開発に行き詰まったときには、必ず周囲のメンバーからサポートやアドバイスを受けられるのも、当社の魅力だと思います。

北村さんが魅力だと感じる組織カルチャーはありますか。

私が気に入っているのは「『さん』コミュニケーション」と呼ばれる習慣です。部長や課長など役職のある人も、一般の社員も、お互いに「〇〇さん」と呼び合います。部内には幅広い年代の社員がいますが、この習慣のおかげか、年齢や役職を問わず気軽にコミュニケーションがとれます。仕事で困ったときにもすぐに相談できるので、とても働きやすいです。

自動化技術開発部は他部門のメンバーと連携する機会も多いのですが、部門間に壁がないのも魅力です。最近では、各製品の設計メンバーと一緒に検討会を立ち上げ、定期的に工程の自動化について検討し合う時間を設けています。日頃から会話をし、お互いの意見を理解し合うことが、今後の開発に大いに生きると考えています。

制度面の働きやすさについても教えてください。

在宅勤務が制度化されている点が良いですね。装置を試験する日はもちろん出社する必要がありますが、図面を引いたり資料をまとめたりといった作業をする日は在宅勤務をしています。開発チームでは「週に一度は出社して、顔を合わせよう」と決めていて、出社勤務と在宅勤務のバランスを取るように心掛けています。

有給休暇はもちろん各自が希望した日に取れますし、育児休業を取得するメンバーも多いです。育児休業は男女関係なく取得していて、取得期間も長いと思います。家庭やプライベートを重視したい人も働きやすい環境だといえるのではないでしょうか。

アウトドアやドライブを楽しみ、長野生活を満喫する

北村さんはエプソンへの入社を機に長野に移住されたそうですね。長野での生活はいかがですか。

はい。私は出身も育ちも兵庫ですが、職場のある長野に移り住みました。海沿いの地元と、山に囲まれた長野の違いには、正直面食らうこともありましたが、今は長野の生活にすっかりなじんでいます。

長野のいいところはやはり、夏の涼しさです。カラッとしていて過ごしやすいところも気に入っています。一方で冬の寒さは厳しくマイナス10度を下回る日もありますが、寒さは不思議と慣れますね。住居の防寒設備が整っているのも要因の一つかもしれません。

長野に移住して大きく変わったのは、休日の過ごし方です。山が近くにあるので登山に挑戦したり、キャンプで星を眺めたり、アウトドアを楽しむ日が増えました。また、車の運転の機会も増え、繁華街まで買い物に行くのに高速道路を使って往復することもよくあります。運転が好きな方ならこうしたドライブも楽しめると思います。

最後に、記事をご覧の方へメッセージをお願いします。

自動化技術開発には決まった正解がないので、自分のアイデアや思いを具現化する楽しさがあります。だからこそ、思いついたアイデアはすぐに試してみる、そんな行動力のある方にとって、とても魅力的な職場だと思います。

実際に私たちのチームには、アイデアを思いつくと「ちょっと作ってくる」とすぐ動き出すメンバーが多いです。それを止める人はいませんし、みんなが協力し合い、スピーディーに動ける環境です。これに魅力を感じたら、ぜひ当社を転職先の一つとして考えていただきたいです。

出典:ビズリーチ 公募ページ「セイコーエプソン株式会社」(2023年5月28日公開)より転載