広がる、プリンターの可能性。紙とデジタルの融合で産業構造に変革を。

「プリンターは印刷できるだけではなく、新しい可能性が広がっています。そのキーとなるのが“DX”と“共創”です」そう話すのは、プリンティングソリューションズ事業本部(以下、P事業部)戦略推進部 原 基彰とP企画設計部 水田 雅彦。今回は、P事業部の主力製品であるプリンターとデジタルの融合が、教育業界に産業構造変革をもたらした事例とともに、プリンターから生まれるイノベーションの可能性について語ります。

大量生産・大量消費・大量廃棄が地球にもたらしたものは、資源の枯渇や環境汚染とは

P事業戦略推進部 シニアスタッフ/原 基彰

最初に、原さんの参画プロジェクトについてお聞かせください。

左 原、右 水田

前提としてP事業部全体では、長期ビジョンで掲げたありたい姿「持続可能でこころ豊かな社会」の実現に向け、世界各国に数多くあるエプソンプリンターのインフラ化を目指し、社会課題解決を目的としたイノベーションを展開しています。現在、教育・医療・飲食を中心とした領域にプリンターを活用したイノベーションを促進しているのですが、なかでも私は教育領域をメインとした戦略推進を担っています。最近では、株式会社 idea spot(イデアスポット)様との共創からEpson Connect※1を用いデジタルと紙を融合させた新しい学習塾の在り方を実現。その成功事例をもとに株式会社スタディラボ様との共創を実現し、2022年6月に「StudyOne(スタディワン)」をリリースすることができました。

「StudyOne」とは?

スタディラボ様が持つLMS(学習管理システム:Learning Management System)と、エプソンが持つ遠隔印刷・スキャン技術を組み合わせ、デジタルと紙を融合させた家庭学習をデザインできるサービス。

そもそも、どうして教育領域を担当されているのでしょうか?

そうですね。人が生まれながらにして持つ経済・地域格差をなくしたい、と考えているからです。“教育”は、不可抗力的な格差を打破できる唯一の手段だと思います。エプソン製品や技術を活用し、まずは教育の地域格差をなくします。どこの国・地域・場所にいても質の高い教育を受けられる環境を整えることで、子どもたちの可能性が広がります。将来の選択肢が増えることで、経済格差の改善にもつながるでしょう。教育から生まれる好循環を実現したいのです。そう考えるに至った発端は、学生時代に学習塾で学習をサポートした経験があったから。学習塾と生徒のニーズを理解しており、「教材を生徒の家に送れたらいいな」と思うことが度々ありました。当時の経験がずっと胸にあり、教育領域でイノベーションを起こすきっかけとなりました。また2020年DX戦略推進(当時)に就任直後、新型コロナウイルスの影響で、“教育の在り方”が見つめ直されたことも大きな追い風となりました。

イノベーションを受け、教育領域にもたらした結果は?

大きな結果は、教育業界のタブーに踏み込み、産業構造改革といえるようなイノベーションを実現できたこと。これまでは、「学習塾という場所で勉強をする」という考え方が当たり前でした。ですが、地域による教育格差や少子化による生徒数の減少、教師・講師の重労働など教育業界が抱える課題を乗り越えるために、新しい手段に加えて「学習塾に通わずとも勉強ができる」といった180度異なる発想への転換が必要でした。そのため、学習塾だけでなく教材会社、現場で働く教師・講師の方々の意識を変えていただくきっかけづくりをしました。さらに嬉しい効果としては、志望校合格率の増加だけでなく、日々プリンターに紙で送られてくる教材をきっかけに、親御さんと子どもの家庭内でのコミュニケーションが増えたという声も聞きました。これらはDXを通じてCX(コーポレート・トランスフォーメーション)を実現できたいい事例になったと感じます。

信頼できる戦略部隊とともに、真のニーズをとらえた設計開発を。

P企画設計部 課長 Epson Connectエバンジェリスト/水田 雅彦

原さんから学習塾の話があった際どう思いましたか?

「いよいよ、新しいことが始まるな」と純粋にわくわくしました。ものづくり企業なので当たり前なのですが、これまでP事業部でいえば、ホーム・オフィス・産業向けのプリンターやラベルプリンターなどプロダクトが主役でした。2011年にEpson Connectのリリース、2020年にEpson Connect APIの公開など機運は高まっていましたが、ソフトウェアを主体としたイノベーションを提供できることに、プロジェクトメンバーも私も可能性の広がりを予感し、興奮していましたね。

開発にあたり、大変だったことは?

私は教育領域に詳しくないものですから、最初は業界の常識や企業特性、真のニーズを把握することからのスタートでした。共創パートナーであるスタディラボ様と打ち合わせを重ね、原さん含むプロジェクトメンバーとの議論を続ける中で、要件定義が定まり、「StudyOne」の大枠が出来上がりました。さらに細やかなニーズ、たとえば「膨大な数の生徒さんから提出された教材を人力で仕分けると、ミスが発生するかもしれない…」という課題に対しては、教材が生徒さんのもとに届く際、紙の隅にQRコードが印刷される仕様に。生徒さんごとに異なるQRコードが課題提出時(スキャン時)に読み込まれ、デジタルに個別学習管理をすることが可能になりました。個社ごとのリアルなニーズを理解し、形にしていく過程は大変でもあり、技術者としての醍醐味でもありますね。

水田さんが技術者として大切にしていることは?

「お客様視点」に立つことです。エプソン製品を用い、どうしたらお客様のニーズや課題解決につながる設計ができるか、ということを日々考えています。あわせて、お客様が保有するシステムと無駄なくつなげ、シンプルな操作方法を実現することにも注力しています。共創パートナーであるスタディラボ様のときにも、実際に使用する講師の方たちの負担にならないよう、既存システムを生かしながら最大限のメリットが得られる設計を考えました。そんなハイレベルな設計構築が可能なのは、原さんのような信頼できる戦略推進部隊がいるからですね。戦略家と技術屋。それぞれが各分野のプロとして、お客様そして共創パートナー様に真剣に向き合っています。

戦略×技術のシナジーが生み出すイノベーションは、世界へ。

今後の構想をお聞かせください。

原:引き続き、教育格差をなくすために貢献していきたいです。たとえば、日本で増え続ける空き家を活用し、エプソンのプリンターとプロジェクターさえあれば、学習塾に通えない地域に住む子どもたちにも教育の場が提供できます。さらに世界における深刻な教育格差にも大きなインパクトを与えられます。すでに2021年には、アフリカの学校で質の高い教育環境を提供するため、エプソンの欧州統括会社Epson Europe B.V.がWorld Mobile Groupと共創しプロジェクトを立ち上げました。170カ国以上にも及ぶエプソングループネットワークを活かして、世界に継続的な支援を展開しています。

水田:やりたいことは世界まで広がりますね。教育領域は原さんについていきます。個人的には、Epson Connectがあれば、各社サービスをプリンターとつなげてサービスが提供できるわけですから、共創により新しいビジネスを展開できたら面白いと思っています。たとえば、スポーツ好きな人のためにスポーツ情報が毎朝プリンターで印刷されたり、アイドル好きな人に向けてブロマイドが毎週プリンターから届いたり…。まだまだプリンターの可能性は広がっています。

原:プリンターの可能性を想像すると胸が躍りますね。新しい領域への挑戦が期待されているからこそ、キャリア採用入社の方がもつ異業界の経験から閃くアイデアがとても貴重なんです。ご自身の実体験が伴っているところから、真のニーズを満たせるイノベーションが生まれますからね。

水田:そうですよね。私も経験者採用入社で、前職もメーカーでしたが経験が活かせていると思います。エプソンには、これまでの経験やスキルを活かせる土壌が整っていますよ。

Message

原:「エプソンといえばプリンター。紙への印刷がメイン」と思う方もいるかもしれません。ですが、私はそもそもアナログとデジタルは対立構造にあるのではなく、共存できると考えます。教育領域でいえば、子どもが主役で私たちは陰の立役者。子どもが教育しやすい環境を整えることが使命であり、アナログ・デジタルは手段にしかすぎません。本質を忘れずに戦略を立て、社会課題に向き合っていきましょう。

水田:エプソンは、新しいことへの挑戦を歓迎してくれる風土が根付いています。また、掲げた目標に対して、部署の垣根を超えて協業し、最後まで愚直にやり切ることができる社員ばかりです。さらに、若手や経験者採用入社者にも裁量大きな仕事を任せてもらえるため、磨きたい技術に貪欲になりながら、スキルやキャリアを高めていける環境です。