DXと共創でプリンターのインフラ化を実現し、分散化社会を「つなぐ」。

長期ビジョン「Epson 25 Renewed」内で重点テーマとして掲げる「DX」「共創」について、エプソンの中核事業であるP(プリンター)事業戦略推進部 部長/DXイノベーションラボ会津センター長 中見 至宏が語ります。デジタルとリアルの融合で実現したい世界とは――。
参考:長期ビジョン「Epson 25 Renewed」

創業時から、「環境」「地域」と共に事業を育んできた。

プリンティングソリューションズ事業本部 P事業戦略推進部 部長 DXイノベーションラボ会津 センター長/中見 至宏

P事業本部が推進するDX戦略についてお聞かせください。

戦略推進部長として共創やDXによる戦略推進を担う。
また福島県会津若松市で暮らしながら、自治体や住民の人たちと触れ合い、社会課題解決に向き合う。

私たちは、長期ビジョン「Epson 25 Renewed」内で語られる「持続可能でこころ豊かな社会」の実現に向けて、「分散化とつながり」をキーワードにデジタルとリアルの組み合わせで、パートナー様やユーザーの直面する課題解決支援を続けています。これは、顧客起点における価値創造を目的とした事業やビジネスモデルの変革(トランスフォーメーション)を目指すものです。具体的には、世界中で使用され、インターネットにつながっているエプソンのプリンターをIoTエッジデバイスと見立てて社会・生活のインフラへと発展させ、サブスクリプションサービスなどでユーザーとつながり続けられる未来を描いています。課題解決やインフラ化を目指すうえで基盤とするのは、私たちが「Epson as a Service」と定めたコンセプト。エプソンの強みであるハードウェアを起点として、パートナー様との共創から新たなサービス開発を行い、ビジネスモデルとして確立させるという考え方です。ハードウェアを主体としてきたこれまでのエプソンの収益モデルをアップデートする新しい考え方と言えるのではないでしょうか。

エプソンのソリューションの価値を発揮できる領域は?

すでにEpson Connect※1やエプソンの印刷・スキャン技術を活用し、各領域のパートナー様との共創から生まれたサービスは多く展開されています。たとえば、B to C領域では在宅学習や在宅勤務、コワーキングスペースでのシェアプリントサービス。B to B(Cも含む)領域では、プリントメディアの価値が高い教育(学習塾・学校)、医療(病院)、飲食(店舗)などが挙げられます。今後さらに教育領域と医療領域での共創を拡大していく方針です。これらの領域は、現状DXが進む変化の真っただ中。「省・小・精」を強みとするハードウェアとデジタル技術の組み合わせで持続的な分散型社会の実現を支援するエプソンが価値を提供できる機会は確実にあります。

※1: インターネットを経由してエプソンプリンターやスキャナーで印刷やスキャンを行うことができるクラウドサービス

共創の実現において大切にしていることは、当事者としてユーザーや現場が抱える課題に向き合い、喜んでいただけるサービスを創り上げること。継続的なつながりから得られる膨大なデータを分析し、ユーザーや現場目線でのリアルな悩みや、まだ顕在化していない課題を理解したうえで、いち当事者として向き合いながらサービス開発していきたいと考えています。

柔軟な発想と新しいアイデアを取り込める環境がある。

共創の取り組みについてお聞かせください。

社会課題を解決するサービスやソリューションは、エプソンのハードウェアだけでは提供できません。積極的に外に出て、スタートアップ企業から大学、自治体まで各分野を熟知したパートナー様と、お互いの強みを持ちより共創することで生み出されます。この実現のために、2011年から自社サービスに使用していたクラウドプリンティングシステムEpson Connectを共創のための技術プラットフォームと位置づけ、API公開しました。

API公開をきっかけに活動は広がりました。2019年から毎年、計3回エプソン主催のハッカソン「Epson HackTrek」を開催。学生から社会人までが集い、Epson Connect APIを使用したプロダクト・事業アイデアを考え、プロトタイプまで作成し、競い合いました。ハッカソンをきっかけに、起業やサービスインしたサービスも多数あります。たとえば、医療従事者と患者のコミュニケーションハブになることを目指す株式会社OPERe様。外来業務のオペレーションを刷新するアプリシステム「ポケさぽ」には、Epson Connect API連携による時間指定・自動印刷機能が実装されました。医療者と患者の入院前のコミュニケーション記録を入院当日に自動印刷し、スキャンすることで、電子カルテに取り込むことが可能になり、医療現場でのオペレーション効率化(タスクシフト)に貢献しています。ほかにも株式会社YuBASE(ユーベース)様が展開する作品と世界をつなぐマーケットプレイス「AnyPalette」は、クリエイターの可能性と活躍の場を広げてくれました。2023年3月に実施した参加型ホスピタルアートイベントは、コロナ禍で疲弊する現場の声から始まりました。エプソンの大判プリンターで、大きく鮮やかに印刷された壁紙の上にシール状の作品を参加者が飾り付け、病院内にアート空間を創り上げました。彩られた空間は、治療に向き合う患者さんやそこで働く人々にエネルギーを与え、心を明るくする新しい取り組みだと話題になり、メディアでも取り上げられました。

2023年3月14-16日 諏訪中央病院(茅野市)参加型ホスピタルアートイベントを支援 多数の子供たちや病院職員の方が参加

首都圏においては、WeWork渋谷スクランブルスクエアの入居や新大久保駅直上のフードラボ「K,D,C,,,」等、各種コミュニティへの参画など個別ミートアップの機会も強化。地方においても、2020年にデジタル田園都市国家構想の先端地域のひとつである福島県会津若松市のICTオフィスAiCTに入居し「スマートシティ会津若松」の促進にも積極的に取り組んでいます。さらに、長野県松本市や福島県西会津町とは連携協定を締結し、地域課題解決や地域振興にも取り組んでいます。都市圏から地方まで各分野に精通するさまざまなステークホルダーとの接点を増やし、繋いでいくことで、柔軟な発想や新しいアイデアが生まれやすいフレキシブルな環境を整えました。これらの環境から生まれた2つの事例をご紹介します。

Case1:スタディラボ様との共創から見る、教育領域での可能性。

株式会社スタディラボ様との共創による「StudyOne(スタディワン)」。スタディラボ様が持つLMS(学習管理システム:Learning Management System)と、エプソンが持つ遠隔印刷・スキャン技術を組み合わせ、デジタルと紙を融合させた家庭学習をデザインできるサービスです。
場所や時間にとらわれない学習スタイルにより、学習塾のない地方や通塾が困難な離島、過疎地域で暮らす子どもたちにも平等な学習機会を提供できるようになります。同時に、効率的な個別指導により教師不足や過重労働など教育領域が抱える深刻な課題解決への一助となります。
教育領域ではデジタル化が促進されていますが、読み・書き・思考する能力は五感を使うアナログな学習から養われます。デジタルとアナログをバランスよくインテグレートした「StudyOne(スタディワン)」のようなサービスは、今後、プログラミング授業やGIGAスクールなど多様な教育現場での活用が期待されます。

Case2:会津から目指す、地域の活性化と自立分散 持続可能型社会。

2021年12月4日 岸田総理、来訪、遠隔会議を体験(出所 内閣官房HP)

エプソンは、福島県会津若松市のスマートシティ構想を推進する一般社団法人AiCTコンソーシアムに参画しています。産学官がひとつ屋根の下に集う「スマートシティAiCT」に拠点を構え(拠点名:DXイノベーションラボ会津)、真の共創マインドを育みながら、自治体や市民の方たちと協働し、地域の活性化と発展の一翼を担っています。
2021年12月には岸田首相が来訪され、Epson Connectや等身大・遠隔空間接続システムを用いた先端のテレワーク環境を体験されました。ほかの地域の小中学校では、GIGAスクール・ICT授業の支援をプロジェクターで行ったり、ビジネスインクジェットプリンターを学校フロアへ配置したりしています。さらに株式会社関美工堂と商業向けソリューションの共創をすすめている「ヒューマンハブ天寧寺倉庫」は、地域の伝統とデジタルが融合する新しい場として、地域活性のみならず、地方分散型社会・地域循環型コミュニティ実現に向けた試みが期待されています。

大判プリンター、ラベルプリンター、ビジネスプリンターは、シェア利用できる。
1階のパン屋横 ポスターは、店員が2階の大判プリンターで自作したもの。

エプソンプロダクトのシェアリングサービスを展開するシェア・コワーキングオフィス(2階)では、施設内のスタッフや市民の方たちがラベルや写真印刷、作品づくりなど創造力豊かな時間を過ごしています。

また持続可能な地域社会をともにつくる仲間として、市民の方や学生など会津に暮らす人々とのリアルな接点を大切にした取り組みも積極的に行っています。その中で実感したのは、幕末から続く会津での教育を受け継ぐ子供たちや会津大学・短期大学の学生、伝統産業、歴史、文化財などエプソンが持ち合わせていない人財やコンテンツに溢れているということ。これらとエプソンのプロダクトや技術を掛け合わせることで、地域社会を彩る新たな価値が生まれ、経済的にも会津地域内で完結する、いわば地産地消のようなことが実現できるのではないかと考えています。全国には1700以上の自治体がありますので、会津がほかを牽引する先行モデルとなれるよう、多様な取り組みを行っていきます。

喜多方市にサテライトオフィスを開設。その内装には、会津の伝統「会津型」をインクジェットで印刷したのれんが飾られている。

世界150カ国のネットワークを活かし、インフラ化の実現は海外へ。

海外への展開・取り組みについてお聞かせください。

これまで述べてきたようなプリンターのインフラ化に向けた日本国内での取り組みは、世界へも拡大しています。特に経済成長が著しいアジアでは、ブランド認知度や大容量インクタンク搭載インクジェットプリンターのシェアも高く、インフラ化に向けた本格的な取り組みを始動しています。ヨーロッパやアメリカの一部では、プリンターのサブスクリプションサービスの導入も進めています。加えて、新たな試みとして2023年4月に、米国シリコンバレーにて、海外初の「ハッカソン」を開催します。日本での事例を基に各国に推進していきますが、国が違えば文化・課題・価値観が全く異なります。そんなときでも「Epson as a Service」コンセプトの原点に返り、当事者意識を持った共創によるイノベーションを展開できればと思います。

距離・時間を超えて、人を「つなぐ」価値を証明していく。

今後の展望や実現したいことについてお聞かせください。

エプソンは、長野県に根差す会社ですから、デジタルの力で地方が機能する分散型社会の確立に向けて、社員でありながら住民として当事者意識を持ちながら牽引していけるユニークな存在だと思います。世界や日本の距離、時間を超えて、エプソンのプロダクトや技術が人と場所を「つなぐ」。つなぐことで生まれる価値が、人々の日々の暮らしを豊かに。大袈裟に言うと個人のウェルビーイングを叶えていく。そんなサービス・ソリューションを提供できたらいいと考えています。

また、「デジタルとリアルの最適な組み合わせ」で(誰一人取り残さない)コミュニケーションやコラボレーションを社会や人々のために追求するのは、情報のINとOUTをリアルで実現できるプリントやスキャンを主力にする私たちの使命だと考えています。

Message
エプソンの変わらぬマインド「誠実努力」「創造と挑戦」

私自身、「誠実努力」「創造と挑戦」はとても好きな言葉です。就職活動をしていた当時、エプソンは“新しい技術をどんどん開発するユニークな地方の会社”として、私の目に魅力的に映り、技術者としての好奇心を掻き立てられました。その印象は今も変わらず、社員一人一人がお客様のことを誠実に考え、新しい挑戦に前向きで、常に進化を続けています。多様化した予測不可能な世界ですから、どのような選択が正解に転ずるかはわかりません。だからこそ歩みをとめず、まずは小さなことからでも挑戦し、学び、修正して、創造していく。エプソンでぜひ、挑戦から生まれる失敗さえも糧にできるような、厚みのある奥深い人に成長していってほしいと思います。