半導体と水晶デバイスの企画・開発・製造すべてを手掛ける唯一無二の事業

MD事業部 MD事業戦略推進部 部長/梅田 博之

MD事業部の成り立ちと事業概要について教えてください。

MD事業部誕生のきっかけは、エプソンのものづくりのルーツである世界初のクオーツウオッチの製品化にあります。当時、同製品に必要不可欠だった省電力・小型・高精度で発振させるIC(集積回路)が存在せず、自社開発することを決断しました。そこで培われたデバイス技術が現在のMD事業部へと引き継がれています。

MD事業部の最大の特徴は、半導体と水晶デバイスという2つのデバイス領域を持っている点です。半導体はエプソンの強みの礎とも言える領域で、先ほど挙げたクオーツウオッチはもちろん、プリンターやプロジェクター、ロボットなどさまざまな製品のコアとなる価値を提供しています。

また、エプソンの半導体は生活用品から車載まで、さまざまなお客様にも提供しています。皆さまが日々触れている製品にも、じつはエプソン製の半導体が数多く使用されています。一方の水晶デバイスは、世界トップクラスのシェアを誇り、1970年代から業界のトップランナーであり続けています。半導体と水晶デバイスを一体化させる私たちのマイクロデバイス技術は、形には見えにくいものの、多くの製品を通じて社会を支えてきたのです。

そうしてMD事業は拡大を続け、高い事業利益を生み出す事業へと成長しました。

MD事業部の強みや競争優位性についてお聞かせください。

MD事業部の強みはなんといっても、半導体、水晶デバイスというまさに産業の核を担う2大デバイスを同じ事業部のなかで、企画から製造までを一貫して行っている点です。

半導体は、産業の中核を担うものとして「米」に例えられますし、水晶においてはあらゆる製品が正確に動くための基準信号をつくることから産業界における「塩」と言われます。MD事業部ではこの産業における「米」と「塩」の双方のデバイス領域を有し、さらにその双方の企画から開発、製造、そして販売に至る全プロセスを一つの事業部で内製化しています。これは、一般的にIDM(Integrated Device Manufacturer)と呼ばれる事業形態の拡大版といえます。近年注目を集める半導体業界のプレーヤーの多くは、製造や設計などの領域に特化した水平分業型の事業展開を行っています。それぞれにメリットがありますが、エプソンの半導体と水晶デバイスのIDMは唯一無二といってよく、市場において極めて大きなアドバンテージになっています。

事実、水晶デバイス特許保有件数は国内随一(※)であり、水晶デバイス特許と組み合わせたIC特許(発振器特許)も多数保有しています。具体的な製品名はここでは申し上げられませんが、皆さまが普段当たり前のように使っている製品の多くにエプソンの技術が応用されています。

参考:取得戦略・活用戦略

省電力・小型・高精度を極め、「非ムーア領域」を開拓する独自戦略

今後の事業展望として、描いている戦略、ビジョンはどんなものですか。

MD事業部では、「『省・小・精の技術』を極めた水晶・半導体ソリューションにより、スマート化する社会の実現に貢献する」というビジョンを掲げています。これを達成するため、水晶の製造技術を通じた高速・大容量通信インフラ(5G/6G)の革新や、水晶・半導体の加工技術を極めた超小型タイミングデバイスによるIoT社会の実現など、さまざまな領域での取り組みを進めています。

コロナ禍で生じた急激な半導体の需給バランスの崩れは現在落ち着きを見せていますが、加速するEV化、AI普及、環境ニーズの高まりや新興国のスマート化の進展など、デバイス市場は今後も伸長していくことは間違いありません。こうした世界情勢や社会変化を注視しながら、省電力・小型・高精度の技術にさらに磨きをかけ開発効率を向上させるとともに、先端ロジック製品に見られるような微細化によらない特定の製品領域=非ムーア領域(セグメンテーション)を戦いの場とする独自の戦略を掲げています。

この背景は、エプソンが幅広い製品を開発していることにあります。例えば、家庭用プリンターから大型の商業・産業用プリンターまで、さらにはロボットや腕時計といった多岐にわたる製品向けにマイクロデバイスを提供する必要があり、そのなかで幅広い技術をIDMという事業形態で培ってきました。それにより、お客様の多様なニーズに迅速かつ正確に対応できる体制を整えているのです。

こうした明確な戦略と独自技術により、MD事業部に課されている「2025年に向けて継続的にROS(売上高経常利益率)15%以上を達成する」という高い目標を前倒しで達成する見通しが立っています。

今後もMD事業部の強みを生かす戦略を継続させながらも、これまで設計的な連携色が強かった水晶デバイスと半導体との連携を加工・製造の観点でも深めていくとともに、センサー領域における共創パートナーとの関係を強化し新しいビジネスを具現化するなど、社内外の取り組みを進化させることで、より一層社会に貢献していきたいと考えています。

「半導体は奥深くて、面白い」エンジニアを魅了する理由

梅田さんにとって、エプソンのMD事業部で働く面白さ、醍醐味は何ですか。

私は今期よりMD事業戦略推進部で事業部の中長期戦略立案を担っておりますが、1991年の入社以降、一貫して半導体の開発・設計に携わってきました。この長いキャリアを改めて振り返ってもやはり、半導体領域は本当に奥深く、やりがいのある仕事だと感じます。

エプソンでは、汎用的な誰もが使える半導体を開発するのではなく、「完成品とIC」そして「デバイスと設計」の擦り合わせによってお客様の完成品システムに最適化した半導体の開発を行う風土や仕組みが根付いています。これを実現できるのは、内需と外需の好循環が生まれるビジネスモデルを確立しているエプソンならではといえます。

私自身、設計者だったころに日々の業務で得たアイデアをお客様に提案して採用されたことで、その市場全体が一気に変化することを実体験しました。一部品から完成品までを手掛け、それをお客様に届け、さらには市場でどのように受け入れられるかまで見届けるという、サプライチェーン全体を担える環境だからこその経験だと思っています。

自分が手掛けたものが誰のどんなお役に立てているかが明確に認識できること、それが半導体領域の仕事の醍醐味です。エプソンには、技術者として特定領域の技術を磨いたり、領域をまたがってスキルを身に付けたり、マネジメント層を目指したりなど多くのキャリアの選択肢があり、希望のキャリアを自ら描いていける環境が整っています。マイクロデバイスに少しでも興味をお持ちの方にとって、これほど魅力的な職場は他にない、私はそう考えています。

「省・小・精」を極めたデバイス技術で、特徴あるICを提供

MD事業部 IC技術部 部長/渡辺 邦雄

渡辺さんが部長を務める「IC技術部」の概要について教えてください。

IC技術部は、シリコンウエハー表面に電子回路を作り込む前工程(ウエハープロセス)と、ICチップをパッケージ化、出荷検査を行う後工程(実装・検査)の2つの組織に分けられます。

前工程は新規デバイスの開発を主務とし、電子回路を構成するトランジスタの開発や、ICの製造に必要なプロセス・生産技術を開発します。後工程は、ICのテスト技術の開発、パッケージ・実装設計と生産技術開発を行っています。

IC技術部ならではの強み、競争優位性についてお聞かせください。

強みとして第一に挙げられるのは、「省・小・精の技術」をコアに極められた技術です。「省」は低リーク・低損失のデバイス、「小」は微細加工技術、そして「精」は高精度アナログIC用デバイスと、それぞれにこだわりの技術が凝縮されています。

こうした技術は、エプソンの源流であるクオーツウオッチ、主力製品であるプリンターやプロジェクター、そして水晶発振器の開発があります。これらに使用されるICを開発するために長年磨いてきた技術です。

代表的な製品の一つにMCU(Micro Controller Unit)があります。デジタルクオーツウオッチ向けの開発から生まれたもので、小さなボタン電池だけで何年も動作するという特徴を持っています。この技術は低リーク仕様のトランジスタ、低電圧動作フラッシュメモリといった専用のデバイス技術と、超低消費設計技術があってこそ生まれたものです。

お客様の声を起点に最適なデバイス開発を実現する、エプソンのDNA

IC技術部の強みや技術力が生かされた製品として、例えばどんなものがありますか。

セイコーウオッチ株式会社から、エプソン独自の駆動機構であるスプリングドライブを搭載した腕時計が発売されています。これはぜんまいで動く機械式と、電池で動く高精度のクオーツ式双方の特徴をあわせ持つ、いわば電池がいらないクオーツ精度のぜんまい駆動腕時計です。

ぜんまいのほどける力による発電でICを動作させる必要があったため、低電圧動作・低リークのSOI(Silicon On Insulator)トランジスタを新たに開発し、回路技術との擦り合わせにより、超低消費で動作するスプリングドライブ用ICを実現しました。ウエアラブル機器事業部、MD事業部の設計と技術が連携し、一丸となって進めたプロジェクトであり、まさにエプソンの「省・小・精の技術」が具現化された事例だといえます。

渡辺さんにとってエプソンのIC技術部で働く魅力、意義についてお聞かせください。

エプソンの「世の中にないものは、自分たちでつくる」という創造と挑戦の精神が、クオーツウオッチICを自社開発すると決断したときから現在に至るまで、変わらず私たちのなかで受け継がれています。また、お客様の困りごとを解決し個別最適なICを開発するというのが私たちのやり方であり、必要ならば新しいデバイスやプロセス自体の開発までも手掛けます。こうした気概あるカルチャーと、ゼロベースのIC開発に携われるというのは、エンジニアにとって大きな魅力だと感じます。

実際に、製品が開発、成長、成熟とサイクルをめぐるなかで製品へのニーズは変遷します。例えば開発期は「こんなトランジスタがほしい」といったデバイスそのものの要望、成長期には「歩留まりを向上させたい」、成熟期には「コストダウンしたい」といった相談などを受けます。そうした声を真摯に受け止め、新製品や新技術を生み出してきました。エプソンでは技術開発と量産製造を一つの自社工場で行うため、開発から量産までをシームレスかつ迅速に対応でき、細分化されたニーズに応えられています。

お客様に寄り添い、お客様とともにIC開発を担うというエプソンの組織風土、そして自分たちの開発したICがエプソン製品をはじめあらゆる製品に使われ、それが世界中の人々に届いている、そうした実感が大きなやりがいにつながっています。

半導体領域の未経験者も活躍できる、個性豊かなメンバーが集う場

どんな方に仲間になってほしいですか。実際に活躍しているメンバーの特徴についても教えてください。

IC技術部では、デバイスシミュレーターを用いたデバイス構造設計、プロセスインテグレーション、デバイス特性評価、そして新製品の量産立ち上げと、多岐にわたる業務を行っています。もちろん半導体のプロセスやデバイス開発の経験がある方を歓迎しますが、たとえ未経験であっても電気や物理が得意な方であれば、きっと活躍していただけるでしょう。

MD事業部には個性豊かなメンバーが集っていますが、実際に現場で活躍しているメンバーに共通するのは自分の強みや得意なことを理解している点です。そして、何事も前向きに取り組むマインドを持っています。皆「お客様の課題を解決したい」「新しい技術を生み出したい」というチャレンジ精神が旺盛です。

最後に、記事をご覧の方にメッセージをお願いします。

MD事業部の設計部門のある長野県富士見町は、高原でさわやかな気候が魅力ですし、技術・製造部門のある山形県酒田市は、海が近く、おいしい食材に恵まれています。どちらも自然豊かなエリアで、働きやすいですし、何よりプライベートも楽しめるのが魅力です。

私たちが提供するマイクロデバイスはあらゆる産業の基礎であり、社会のインフラを支えています。この開発を担う私たちの社会的責任は大きいですし、同時にそれだけ大きな価値を世の中に届けられているという事実が働く原動力にもなっています。

自らが作ったデバイスを世の中に届けたい、お客様の困りごとをデバイス開発を通じて解決したいという熱意を持つ方と一緒に働けることを楽しみにしています。

出典:ビズリーチ 公募ページ「セイコーエプソン株式会社」(2023年08月24日公開)より転載