半導体なくして、社会の存続や発展は困難と言われている時代。エプソンにおいても半導体は各事業のイノベーションを根幹から支える存在です。完成品価値の一翼を担う半導体について、MD(マイクロデバイス)事業部 MD事業戦略推進部 部長であり、半導体従事歴32年の梅田 博之が語ります。

世界を創造する半導体に、夢中になれたのはエプソンだったから

マイクロデバイス事業部 MD事業戦略推進部 部長 梅田 博之

梅田さんにとって、半導体はどのようなものですか?

半導体に惹かれ、32年に渡り夢中になれた私にとって、半導体は世界を創造する"種"です。半導体という"種"から、世の中をあっと驚かせるような花を咲かせる——。どのような花を育てるかは、技術者次第。どういうことかと言うと、現代の目を見張るようなテクノロジーを支えているのも、可能性溢れる世の中を創造していくのも、根源には「半導体」の存在があります。半導体という小さなチップは、時には光や圧を電気信号に変え、時には記憶ができ、時には音になり、時にはモノまでも動かしてしまう。誤解を恐れずに言うと、どんなものも創造できる。多彩な可能性を持つデバイスなのです。
私は新卒入社時からずっと、半導体畑で技術を磨いてきました。半導体は創造力を掻き立て、どこまでも魅了させてくれる存在です。ただ実は、大学を卒業したばかりの私は、目に見えない電気信号で動く半導体に、あまり興味を持てませんでした。ですが、ガス機器用の半導体を設計するプロジェクトを担当した際に、機器の全体構成を理解することで、お客様の困り事を解決できる最適なIC(半導体)を実現。探求心が満たされるのと確かな手ごたえを感じました。このプロジェクトをきっかけに、私の半導体人生が始まりました。ただ、私が長い間半導体に夢中になり、没頭し続けられたのは、技術者の探求心を理解してくれるエプソンだったからだと思います。

世界に先駆けて始まった、エプソンの基盤をつくる半導体事業

エプソン内でのMD事業部の位置づけは?

プリンターやプロジェクター、ロボット、ウオッチなど全事業のイノベーションを支え続ける成熟領域として位置づけられています。MD事業部は、これからお話しする「半導体部門」と、通信・ネットワーク領域(5G・6G)や民生・産業領域(IoT)、車載領域(EV・AD/ADAS)などで活用される「水晶デバイス部門」で構成されているのですが、私たちがつくる半導体や水晶デバイスは多くのエプソン製品に組み込まれています。まさにエプソンの基盤をつくる事業と言えるでしょう。
またエプソンの長期ビジョン「Epson 25 Renewed」内において、MD事業部では「『省・小・精の技術※1』を極めた水晶・半導体ソリューションによりスマート化する社会の実現に貢献する」という目指す姿を掲げています。その中でも半導体部門は「エネルギーを省く」技術をコアに、世の中に価値を創造しています。

※1:技術のみではなく、無駄を省き、より小さく、より精密にするという考え方

各事業の基盤をつくる成熟領域。そもそもの始まりは?

半導体開発は、エプソンのルーツであるウオッチ事業から始まりました。それは、1969年に発売されたクオーツウオッチ「セイコー クオーツアストロン (販売:株式会社服部時計店、現セイコーウオッチ株式会社)」の開発時にまで遡ります。クオーツウオッチ開発を進める中、必要となったのは低消費電力かつ小型化・低コストIC(半導体)。当時、国内にはクオーツウオッチ専用ICを製造するメーカーや、既存の半導体のカスタム対応が可能なメーカーもありませんでした。そこで専用ICの自社開発を決断。ウオッチを量産するにあたり、半導体がエプソンにとってキーデバイスになると判断し、事業をスタートさせました。

ウオッチ専用ICを開発できるメーカーでもあることから、世界に先駆けた進化は止まらず、1999年に発表された腕時計「スプリングドライブ※2」においては、電池の力ではなくウオッチに内蔵されたバネの振動により、エネルギーを生み出す画期的なICを開発。その後も、太陽光のみで動作するGPSソーラーウオッチ「セイコーアストロン」など、次々と世の中に新しい技術を発表してきました。このようなウオッチ用ICを基盤に、プリンターやプロジェクター用IC、LCDドライバやASIC、マイクロコントローラなど半導体領域を拡大させる中で、一貫して「エネルギーを省く・低パワー」の半導体開発に取り組んでいます。

※2:企画・販売は、セイコーウオッチ株式会社。スプリングドライブはセイコーグループ(株)の商標登録です。

優位性を磨き、戦うフィールドを見極め、技術進化を促進させる

歴史を携えて、今後の半導体事業の戦略は?

キーワードは、大きく分けて3つ。「極めた省エネルギー技術(コア・コンピタンス※3)」「特定のフィールド(戦う場)」「好循環を生み出すビジネスモデル(戦い方)」にあります。一つ目の「極めた省エネルギー技術」については、先ほどもお話させていただいた通り、エネルギーを省く半導体技術を強みとし、優位性を保つこと。二つ目の「特定のフィールド」について。70兆円と言われる半導体市場は、「ムーアの法則※4」に沿って微細化が加速するムーア領域と、スケーリング則に依らない非ムーア領域に分かれています。私たちは、後者の非ムーア領域を戦いの場としています。これはウオッチやプリンター、プロジェクターなどで培った半導体の技術と資産が活きる分野だからです。

※3:独自のスキルや技術の複合体。企業活動において中枢・中核となる強みを指す。
※4:インテルのゴードン・ムーア氏が1965年に半導体微細化の指標を発表した論文。単位面積あたりの素子数は2年で倍増すると予測されている。

最後に三つ目の「好循環を生み出すビジネスモデル(戦い方)」は、二段階に分かれます。まずは自社製品に深く入り込み、課題を抽出、完成品や全体システムを理解したうえで、半導体による解決手段を導きます。一般的に、自社製品といっても半導体などはIC専門企業から採用する企業も多くある中で、エプソンは完成品から徹底的に最適化した半導体を創り上げることにこだわっているからこそ、自社製品に深く入り込むことが可能なのです。そして次に、自社での開発資産(解決事例)を元に、外販のお客様への提案に昇華。自社製品の半導体基盤が丁寧に作り込まれているからこそ、お客様が抱える課題に対し、効率的かつ短期間で解決へと導くことができます。さらに、外販で得られた市場情報を自社に還元することで、さらに技術は進化していく——。内需から外へ、外から内需へ。好循環が生まれるビジネスモデルを確立しています。

具体的な半導体の開発事例は?

プリンターのインクジェットヘッド・モーターやプロジェクターの液晶ライトバルブ・光源、ウオッチぜんまい駆動クオーツ制御腕時計など、各エプソン製品に搭載されているため、自社向けの開発事例は多岐に渡ります。社外向けも生活用品から車載まで幅広く開発されています。具体的には、体温計・血圧計、ペンタブレット、一眼レフカメラ、プライスタグ、ワイヤレス補聴器などの電池系アプリケーションをはじめ、FA産業用機器、住設機器、車載ディスプレイ、など多くの電気製品に採用実績があります。

なかでも補聴器に関しては、エプソンの半導体技術が課題解決をした分かりやすい事例ではないでしょうか。従来の補聴器は一次電池が主流であり、放電特性や電池交換作業、夏場や運動の発汗による水分侵入対策などの課題がありました。そこで、エプソンが保有していたワイレス充電技術を補聴器用に尖らせた技術開発をすることで、ワイヤレス補聴器の実用化に成功。2016年には量産される運びとなり、補聴器の利便性を高めることを可能にしました。
すべての事例に共通しているのは、汎用的な誰もが使える半導体を開発するのではなく、製品に深く入り込み、最適化にこだわった半導体を創造していくことで、エプソンの半導体の価値を発揮し続けているということです。

あくなき探求心を歓迎する風土。半導体にのめり込める環境がある

エプソンで半導体を扱う醍醐味は?

自社の完成品開発過程での資産を基盤に、お客様の完成品にも深く入り込み、最適な半導体を開発できる面白さがあります。私たちには、エプソンだからこそ育むことができた強いコア技術を結集した完成品があります。開発過程での資産を生かし、さらにお客様の課題解決へと発展させられることは、きっとあなたの好奇心を枯渇させることはないでしょう。手掛けた半導体が完成品の価値に寄与することで、多様な自社完成品を世に出す貢献の実感に興味がある方にとっては、この上ない環境です。

また最適な半導体を開発するにあたり、「そこまでやる?!」という意味のある拘りが許容される風土が、営業・開発設計・製造・管理など部門を越えて根付いています。完成品の困りごとに対し届かない半導体であれば、時には半導体製造プロセスやメモリ要素から開発することもあります。自社で完結するため、レスポンスも早く、コミュニケーションをとりながら業務を進めることができます。コア技術そのものを大切にし、認め合う風土があるエプソンだからこそ、私がずっと半導体に夢中になれているのだと思います。

Message: 多彩なキャリアプランを描ける。

私のキャリアから、半導体の話をずっとしてきましたが、エプソンには幅広い事業があります。水晶デバイス、ウオッチ、プリンター、プロジェクター、ロボットなど、全事業の拠点が長野県内で完結。高速道路一本で行ける場所に立地しています。半導体だけに限定することなく、多種多様な技術やスキルを磨けることも大きな魅力です。そして、最後にプライベートに関する余談ですが、信州はたくさんの温泉がある土地です。休日は温泉地巡りを堪能し、リフレッシュするなど仕事も生活も全力で、楽しめる環境だと思います。

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