インクジェットが織りなす社会課題解決とは

インクジェット技術で世界をリードするセイコーエプソン株式会社。日々進化する技術とその強みを生かし、印刷プロセスから生産プロセスに至るまで、革新的なソリューションを生み出してきました。その担い手は、2020年に創設されたIJS事業部(インクジェットソリューションズ事業部)です。インクジェットを通じてお客様のニーズに応えるのはもちろん、その先の社会課題解決を目指す同事業部の魅力について、事業部長である福田氏に伺いました。

執行役員 IJS事業部長/福田 俊也

はじめに、福田さんのご経歴についてお聞かせください。

私は2006年にセイコーエプソンに入社し、品質保証やインクジェットプリンター用ヘッド(以下 インクジェットヘッド)の開発設計、本社機能の技術開発などを手掛けました。その後インクジェットの仕事に戻り、自分で作ったものを自分で売る営業を経験しました。その後、2020年にIJS事業部の立ち上げを手掛け、2023年に事業部長となりました。そして2024年度に執行役員に就いたところです。

福田さんがIJS事業部の立ち上げを主導されています。その経緯や狙いを教えてください。

まず、IJS事業部が扱うインクジェットヘッドとは、「微細な液体を高精度で飛ばすデバイス」です。私たちが扱うインクジェットヘッドの特徴の一つは、この液体が一般的な印刷用のインクにとどまらないことです。衣服などの着色に使われるインクのほか、環境対策として注目されるエネルギー関連に使われるような機能性材料であったり、半導体を加工するような溶剤であったりと、様々なものに広がりがあります。一般的にイメージされるプリンティング用途のみならず、布、食品、製薬など世の中の様々な領域で活用が進んでいます。

エプソンが誇るコアデバイスであるインクジェットヘッドの技術は、吐出できる液体の多様化、要求レベルの高精度化の実現など日々進化しており、世の中には様々なニーズがあることもわかっています。だからこそ、私たちのインクジェットヘッドを使っていただくことがそれらのニーズに貢献できると考えました。

ただ、私たちだけではその実現に時間がかかります。ですので、ステークホルダーと「共創」し、私たちのヘッドを使っていただき、その融合から新しいソリューションを生み出したい。そのために、意欲や気概のあるエンジニアを社内で募った結果生まれたチームがIJS事業部の始まりです。エプソンは、お客様の「これってできないの?」をどうにかして形にしたいと考える開発集団だと私は感じています。

技術と製品を誰よりも理解して、お客様の活用に伴走する

そうしたミッションを持つIJS事業部は順調に業績を伸ばしています。成長要因はどこにありますか。

一つは、エプソンのお客様に伴走する姿勢です。私たちはIJS事業部の立ち上げ以降、様々なニーズに対してインクジェットヘッド開発を進めています。しかし、インクジェットヘッドは非常に複雑な精密機器であるため、お客様が一朝一夕で簡単に使いこなすことはできません。そこで、技術者が直接お客様のもとへ出向き、伴走しながら活用支援を地道に行っています。こうした取り組みが功を奏し、お客様の横展開が広がっていると実感しますね。また、その入り込んだ支援によって、次に何を開発する必要があるかのアイデアも生まれてくるので、良いサイクルが回っていることも成長要因の一つであると思います。

そのため、今はまずDX組織を整え、カルチャーをつくっていく段階にあると捉えています。現場すなわち事業部側と、私たちDX推進本部が連携を強め、同じ方向を向き、共通の価値観を持つことが大切です。それが、全社最適のDXを実現するカギとなります。そうした組織づくりをリードできる人材こそ、今のエプソンには必要です。

もう一つは、インクジェットヘッドで使われているエプソン完全独自開発のPrecisionCoreチップです。この技術はお客様の様々な要求に対するカスタマイズ対応を容易にする、私たちの基幹技術です。高精度MEMS加工技術や薄膜ピエゾテクノロジーなどを融合させたこの技術によって、多種多様な素材の液体吐出を可能に、そして様々な微細液滴サイズを自由にカスタマイズできます。

このようなエプソンの独自技術が、お客様のあらゆるニーズに応えるソリューションを生み出しています。

技術と製品を誰よりも理解して、お客様の活用に伴走する

─コア技術を持ち、さらに完成品まで手掛けているエプソンだからこその強みですね。

そうですね。自分たちで企画設計し、作り上げた製品だからこそ、その製品の特徴や技術について誰よりも理解しています。それを実現する技術者の力量はもちろんですが、ソリューションを生み出すIJS事業部のすべてのメンバーが深い知識と熱量をもってお客様にお届けできています。

たとえ製品のよさを理解していても、それをお客様に伝えるには技術視点だけでないコミュニケーション力が求められます。何度もお客様のもとに行き、繰り返し説明し、導入に伴走して初めて伝わるものです。営業部門とも連携しながらエプソン一丸となって市場開拓をする楽しさや、お客様に喜んでいただく醍醐味を味わえる、それがIJS事業部の仕事です。

IJS事業の今後の展望についてお聞かせください。

目指す方向性はずっと変わりません。インクジェットヘッドの可能性をより広げていく、これに尽きます。

世の中のどこにインクジェット技術を活用できるのかについて、すでに見えている部分と、まだ見えていない部分があるのは事実です。はっきりと見えている部分としては、例えばアナログ印刷があります。アナログ印刷は素晴らしい技術ですが、環境負荷の面や多種多様なニーズに対する対応範囲などの課題を抱えています。こういった課題に対してわれわれの技術力が貢献できれば、インクジェットを活用していただける領域が広がります。ですから、アナログ印刷機メーカーやインクメーカーをはじめとした様々なパートナーと共創しながら、短・中・長期の開発を進めているところです。

また、グローバルに展開している企業だからこそ、インクジェット技術をより多くの人に使っていただきたいと考えています。新興国や先進国を中心 に、課題は様々ですから、そういったところにも技術を展開していきたいと考えています。そして、インクジェットヘッドの市場をより大きく成長させていきます。

「エプソンも、世の中も、変えていきたい」 自ら志願し集まったメンバー

─IJS事業部ならではの組織カルチャーについても教えてください。

根底にあるのは「愚直な技術者」たるマインドです。誇りと責任を持つ一方で、お客様のためになるものを世の中に届けたい、という強い思いをもったメンバーがそろっています。

また、IJS事業部は2020年に立ち上がったばかりの組織です。自ら志願して集まってきたメンバーも多く、自ら現状を打開したいと考える人材も多いです。よい意味で、『エプソンの固定観念に縛られない』『今よりも明日、さらによくしたい』、そうした熱い思いと信念を持っていて、新しいことにチャレンジする組織カルチャーです。

ただ、既存の枠組みを覆そうという気概を持ちつつも、ただ思いついたアイデアを実行するのではなく、「その先に明るい未来があるのかどうか」を考え抜いています。独りよがりではなく、お客様のために行動できるメンバーが多いと思っています。

IJS事業部で活躍するためには、どのようなスキルやマインドが求められますか。

何よりも重要なことは、学ぶ意欲の高さですね。IJS事業部は基本的に新しい課題・将来に向けて事業を生み出していく組織のため、未知の領域に挑む機会が多くあります。そんなときには、これまでの学びが助けになりますし、さらに学びを続けられる人がより高い成果を上げられます。難題を突きつけられたときこそ、エプソンとしての意地と熱量が湧くマインドを持った方々がたくさん活躍しています。

加えて、どんなものでもよいのですが、人に自信を持って表現できる自分の得意分野を持っていることも大事だと思いますね。仕事は得意な人に集まる傾向があると思っています。複数持っているとさらに望ましく、より困難な仕事が集まるでしょうし、その人のアイデアによって、他の誰もなし得ないことを実現できると思います。ぜひ自分の得意なものについて語れる方と一緒に働きたいです。

そのうえで、現状に満足せず今を変えたい、よりよくしたいとの思いを抱き、行動に移せる方にこそ参画していただきたいと思っています。ぜひ、社内で気付けていない課題を指摘していただきたいですし、どう直すべきかのアイデアをいただきたいです。

課題設定したものを自ら解決、技術者にとって絶好のフィールド

そうした人材にとって、IJS事業部に参画するメリット、やりがいは何でしょうか。

これまでと違うやり方でも納得性があればすぐに取り入れる文化があります。成果を出す、やり切るという責任感は必要ですが、そこに立ち向える環境を用意していることがIJS事業部のメリットの一 つです。

実際、従来インクジェットヘッドを溶かしてしまう液体をも吐出利用できるようにした事例があります。ヘッドを溶かしてしまうので、当然従来のプリンターでは使えないものでした。そこへ、「溶けない材料でヘッドを作ればいい」と提言したメンバーが現れました。それを聞いた私は、「実現の可能性は低いかもしれない。でも、できたらすごいことだ」と思い、「2年間を期限としてやってみてほしい」と実行を任せたのです。すると、彼らは外部メーカーに自ら出向き交渉を重ね、社内でそうした技術や志を持った仲間を集めることだけを支援した結果、たった1年半で技術を確立させてしまいました。他の人が「やらない」「できない」と思っているところに挑戦したい、というマインドを持った人にとって、非常に魅力的な場といえるでしょう。

最後に、記事の読者にメッセージをお願いします。

エプソンは、材料から半導体加工、完成品まで、ものづくりの川上から川下まで、そしてお客様に届けるところまでを一貫して手掛ける事業形態です。技術者にとってみれば、自分が手掛けた仕事が完成品として出来上がるまでを見届けられ、さらにお客様にまで届けられるという、非常に楽しくやりがいのある環境だと思います。

その過程にある専門技術が非常に高度であるからこそ、お客様に喜んでいただけるものを継続的に生み出すことができます。そんな専門性の成長が、個人の成長にもつながるものだと思います。

インクジェットは、社会のあらゆるところですでに使われ、これからもさらに使われていく素晴らしい技術です。インクジェット技術を通じて、自らの手で世の中をよくしていける。そうした大きな可能性を秘めた事業ですので、ぜひ奮ってご応募ください。

出典:ビズリーチ 公募ページ「セイコーエプソン株式会社」(2024年10月29日公開)より転載