実はここまで進化──エプソンが誇るプリンティング技術の神髄

執行役員 プリンティングソリューションズ事業本部長/𠮷田 潤吉

エプソンにおけるプリンティングソリューションズ事業部の役割や、事業概要についてお聞かせください。

エプソンは創業当初から世界初となる精密技術、製品を数多く生み出してきました。その象徴が、私たちプリンティングソリューションズ事業本部の中核技術、「マイクロピエゾインクジェットヘッド」です。「カラリオ」で知名度のあるホーム用プリンターのほか、小規模から大規模オフィス向け、商業・産業向けまでプリンターを世界中で展開し、日本の家庭市場の約半分、世界市場では約3割のシェアを誇ります。

プリンティングソリューションズ事業本部は、エプソングループ全体の売上収益の7割ほどを担う中核事業です。事業領域は「オフィス・ホームプリンティング」と、BtoBソリューションを提供する「商業・産業プリンティング」に分けられ、手のひらに載る小型機から数メートルにおよぶ大型機まで幅広いポートフォリオを構築しています。生産体制は東南アジアを中心に大規模な拠点をもち、昨年度は年間2,100万台以上の製品を世界中に届けました。

エプソンのインクジェットヘッド技術の特徴や強み、またそれを生かした活用領域について教えてください。

そもそもインクジェットとは、高密度かつ高速にインクを吹き付けるという非接触の印刷技術です。私たちのインクジェットヘッドは、そのなかでも熱を使わず電力消費が極めて低くかつ集積度も高いので、ホーム用から高速の産業用までスケーラブルに展開できる特徴があります。また1秒間に最大 5万発と高速にインク滴を吐出することでスピーディーかつ美しく印刷できることに加え、サイズがコンパクトなため自由なレイアウトも可能です。

熱を使わないのは大きなメリットで、インクの選択肢が広く、紙以外にも布や壁紙、金属、立体物など、印刷対象の幅も広がります。例えばUVインクの技術を応用すれば、凹凸を生み出す印刷も可能です。さらにデジタルのため印刷版をつくる必要がなく、小ロットや一品目の生産にも向いています。自分のオリジナルデザインの洋服をつくったり、シーズンごとに部屋の壁紙を変えたりと、クリエーティブの可能性も広がるのです。今後は、これまで印刷の概念から遠かった産業、例えば基板製造、創薬、バイオなどの分野での活用も考えています。

さらに特筆すべき点は、省エネ、省資源であること。レーザープリンターと比べてインクジェットプリンターは最大消費電力が小さく優れた省電力性能をもっています。また構造がシンプルなため交換部品や廃棄部品が少なく、環境負荷も低いのです。環境貢献の観点から、プリンター業界を従来のレーザー方式からインクジェット方式へとシフトさせたいと考えています。その変革の中核にいるのが、私たちエプソンなのです。

オープンイノベーションで顧客価値を高めるソリューションを創出

プロダクトの提供にとどまらず、独自のソリューションを開発、展開しているとのことですが、具体的な事例を教えてください。

例えば、ICT学習コンテンツを運営販売する株式会社スタディラボ様が提供する「StudyOne(スタディワン)」というサービスは、エプソンとのオープンイノベーションによって実現したものです。既存の学習管理システム(LMS)に当社の遠隔技術を組み合わせることで、学習塾向けに家庭との遠隔学習を支援しています。
コロナ禍で教室に通えなくても、オンライン授業との組み合わせですぐに課題を遠隔印刷、遠隔スキャンで塾に提出でき、その進捗はLMS上で詳細に記録。リモート環境であっても、先生が負荷なく生徒の学習状況を把握でき、一人一人に合わせた学習指導が可能になりました。

もう一つ、医療オペレーションを刷新するアプリを開発していた株式会社OPERe様に声をかけていただき、看護師さんの業務効率化を実現した事例があります。当時、隔離状態にあるコロナ患者さんのために看護師さんが買い物代行をしていたのですが、それが業務を圧迫しつつありました。そこで、病室にいる患者さんの依頼内容がコンビニに設置したプリンターへ直接送られる仕組みを実装。看護師さんの手間と負担を大幅に削減することに成功しました。

現代のニーズに合わせ、さまざまな困りごとに役立つソリューションが生み出されているのですね。

そうですね。先の事例のように、当社のハードウエアを起点としてパートナー企業と新たなソリューションを開発し提供するコンセプトをEpson as a Serviceと私たちは呼んでいます。これらには「Epson Connect」というクラウドプリンティングシステムがバックグラウンドで活用されています。

Epson Connectは10年以上前からプリンターに組み込んでいたシステムですが、そのAPIのライセンスを公開したことで、私たちの知見だけでは想像できなかったような領域でもご活用いただいています。また、IoT化した私たちのデバイスをつなげることで、オフィス領域では在宅勤務支援、商業産業領域ではカラーマネジメント、遠隔監視・故障予知、生産管理などさまざまなソリューションも提供しています。

プリンティングとスキャニングは、アウトプットとインプットを橋渡しする、いわばリアルとデジタルをつなぐものです。この特性に着目 し、さまざまな専門領域のスタートアップやパートナー企業と共創することで、多種多様なソリューションを生み出せます。たとえ紙への印刷需要が減ったとしても、私たちの技術を生かせるフィールドは広がり続けていく。その活用先は無限にある。そう確信しています。

持続可能な社会に向け、脱炭素や資源のリサイクルを追求する

エプソンやプリンティングソリューションズ事業本部の今後のビジョンについてお聞かせください。

エプソンの企業理念に「地球を友に」というキーワードがあるように、常に社会課題の解決へ真正面から取り組んできました。社会課題の解決を通じ、地球と共生しながら持続可能な事業成長を遂げることに重きをおいています。その象徴として、2021年に策定した長期ビジョン「Epson 25 Renewed」では重要テーマに環境への取り組みを掲げました。

それを支えるのは、当社の「省・小・精」の技術です。「省」とは無駄を省き効率化し消費エネルギーを抑制すること、「小」とは小型化し使用資源や生産プロセスなどもミニマルにしていくこと、そして「精」とは精緻で精密なデバイスやプロセスをつくること。省エネ、省資源のプリンター開発にこだわってきたのも、この信念ゆえです。「省・小・精」はこれからの世界に必要不可欠な技術ですし、脱炭素や資源循環につながる技術や製品開発など、環境負荷低減の取り組みを加速させていきます。

環境に配慮した取り組みには、具体的にどのようなものがありますか。

そもそも当社のインクジェット技術や製品そのものが環境負荷低減に貢献しています。それらをより一層普及させることこそ、重要な取り組みの一つだと考えています。

加えて、使用済みの紙を新たな紙へと再生する乾式オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」などが挙げられます。通常の紙のリサイクルには大 量の水が必要ですが、当社は水蒸気程度のごくわずかな水量でリサイクルできる技術を開発しました。シュレッダー感覚で使用済みの紙を入れると新しく再生された紙が出てくるのですが、水をほとんど使わないため設置のための工事も不要で、オフィスなど室内に置けるサイズで実現できた画期的な製品です。

インクジェットによるデジタル捺染(なっせん)を用いたアパレル領域への取り組みも強化しています。例えば、2022年のパリオートクチュールコレクションに招待されているファッションデザイナー・中里唯馬氏の衣装や会場の制作協力を行っています。当社は中里氏の環境への高い意識に共感し、デザイナーとしての創造性と環境負荷低減を両立できるよう、捺染技術などを通じて省資源、水資源の削減の取り組みを進めています。

社員の役割は固定しない。柔軟な組織で主体的な働き方を促進する

新たなソリューション創出や環境負荷を下げる技術開発など、数々のイノベーションを生み出してきたエプソンですが、その源泉はどこにあるのでしょうか。

社員が自分の領域を超えて柔軟に動ける組織づくりにこだわっている点が、イノベーションの源泉といえるかもしれません。当社が大切にしている行動規範に「誠実努力」と「創造と挑戦」があるのですが、お客様のことを誠実に考え努力し、そして社員自らが果たすべき役割を考えて柔軟に対応して創造し挑戦していくことが、お客様への価値創造につながると考えています。

またプリンティングソリューションズ事業本部では、お客様が必要とするものを突き詰め、ハードウエアだけでなくソフトウエアも含めた包括的なソリューションを提供しています。それにはお客様のバリューチェーン全体を社員自身が見渡す必要があり、その過程で各組織の担当領域が曖昧になっている傾向があります。例えば設計部門が生産技術へ、品質保証が開発へ、営業が品質管理へと、それぞれの役割を超えて別の領域に首を突っ込み、オーバーラップするような形で関わっているのです。

この根底には「自分の仕事がどうやってお客様へ届いているのか」「お客様の困りごとをうまく解決できているのか」「仕事を通じて社会課題を解決できているのか」を常に考え行動し続けるという、エプソンのDNAが流れていると感じます。良くも悪くもまじめな会社なのかもしれません。これらを社員一人一人が自ら体現してくれていることを、事業責任者として誇りに思います。

グローバルな環境と多様な選択肢から、自分らしいキャリアを描く

エプソンだからこそ描けるキャリアや得られる経験について教えてください。

当社は、社員それぞれの志向に合わせたキャリアが築けることを重視しています。本人の意欲があればジョブローテーションも積極的に行っており、営業部門から企画部門に移ったり、海外へ赴任したりなど、ジョブチェンジの事例も多くあります。転職せずとも社内で職種を変えて新たなチャレンジができるのは、幅広い事業ポートフォリオをもつエプソンならではといえるでしょう。

一方で、「3年ごとにジョブローテーションを行う」など固定化した制度は設けていません。なぜなら、成長意欲やチャレンジ精神は人から与えられるものではないと考えるからです。自らキャリアを考える仕組みとしては、一般的な社内公募制度のほか、「NEXT面談」と呼ばれる上司との定期面談も始めました。自発的に自身のキャリアを考えられる機会を設けることで、それぞれが自分に合ったキャリアを描き、それに向かってチャレンジできる環境を目指しています。

先ほど海外赴任の話も出ましたが、日々の業務でもグローバルな仕事に携われるチャンスは多いのでしょうか。

もちろんです。当社の大きな特徴として世界中に開発、販売、サービスのネットワークをバランスよく広げていることが挙げられます。南北米州地域、欧州・中東・アフリカ地域、アジア太平洋地域、日本の4エリアの収益はほぼ当分、つまり海外事業の収益比率が非常に大きいのです。そのため国内事業に携わっていても海外とコミュニケーションをとる機会が頻繁にあります。

私自身、これまでのキャリアの3分の1を海外で過ごしました。入社当時は苦手だった英語も実務を通じて鍛えられ、世界中の仲間と信頼関係と共通の価値観をもてるようになりました。これは私にとって大きな財産です。当社では形式的なグローバリズムではなく、事業を通じたプラクティカルなグローバリズムを体感できます。他社ではなかなか経験できないような、貴重なキャリアを歩める環境だと思います。

地方分散型社会を体現し、社会のため、地球のために働く

エプソンは長野県諏訪市に本社を置き、長野県の中信地区を中心にたくさんの事業所がありますね。地域との連携についてどのように感じているかお聞かせください。

今後も日本社会を成長させるには、東京一極型社会から地方分散型社会を実現する必要があると考えています。その取り組みの象徴が、エプソンの拠点です。本社は長野県諏訪市にあり、プリンティングソリューションズ事業本部も長野県塩尻市にある広丘事業所を本拠地としています。関連事業所や製造拠点は北海道、東北、九州など地方にあり、まさに地方分散型社会を体現しています。

長野県以外での事例としては、福島県会津若松市に産官学のオープンイノベーション拠点を設け、市のスマートシティプロジェクトに参画しています。プリンターやプロジェクターをインターフェースとし、家庭におけるさまざまな分野のDX化の実証実験を進めています。

キャリア入社者の7割が長野県外から転居しているそうですね。長野に暮らし、長野で働く魅力について、𠮷田さんはどのように感じていますか。

私自身は東京で生まれ育ちました。就職して長野県に移り住み、その後、カリフォルニアやシンガポールでの駐在生活を経て、今は長野県塩尻市に住んでいます。

国内外さまざまな場所で生活してきましたが、塩尻や松本のエリアは晴天率が高くカラッとしていて、まるでカリフォルニアのように過ごしやすいです。また自然が豊かで空気も水もきれいです。松本周辺は医療や教育のインフラも整っているため、不便や不安を感じたことはありません。これまで住んだことのある地域で一番暮らしやすく働きやすい環境だと、私は思っています。

最後に、記事をご覧の方にメッセージをお願いします。

「プリンター=古い業界」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし私たちは、人間の想像力がつくり出すあらゆるイメージやマテリアルをリアルな場に表現する手段こそがプリントだと考えています。つまり、古くも新しい技術なのです。

私たちは、これまで培ってきた技術力と専門性を結集しながら、新しいソリューションを次々と具現化し、従来の固定観念を覆してきました。当社のグローバルタグラインである「Exceed Your Vision」は、お客様や世の中の期待を超えた驚きをお届けするという、私たちの使命感を表しています。
こうした取り組みを通じ、私たちは、持続可能で心豊かな社会をつくるという高い目標に向き合っています。これは10年、20年という長い年月がかかるものですし、到底自分たちだけでは実現できません。だからこそ私たちは、異なる業界や会社で経験を積んできた方など、今までエプソンにはいなかったような新しい仲間を求めています。

転職をしようとしていらっしゃる方は今、さまざまな思いを抱え、人生をかけて行動に移されているのだと思います。エプソンにご入社いただくならば、「ああ、エプソンに来てよかったな」と思ってもらえるようなワクワクする会社、やりがいを感じていただける会社であり続けることをお約束します。少しでもエプソンに興味をもっていただき、私たちと話をする機会をいただけたらと思っています。

出典:ビズリーチ 公募ページ「セイコーエプソン株式会社」(2022年9月27日公開)より転載

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